3日連続で、中国の中央銀行は2%、1.6%、1.1%と人民元の切り下げを実行した。これは1994年以来の記録的な切り下げであり、従来の為替安定方針を覆すものとなった。隣接国であり、経済的な親密度の高いベトナムもこの金融危機の影響を避けることができない。

1.貿易

人民元の価値が下がることで、ベトナムの貿易にネガティブな影響が出る。値段が安くなることから、中国からの輸入量は増えるが、輸出面では困難が予想される。特にベトナムの主要収入項目である農産物への輸出への影響が大きい。

2014年ベトナムの中国との貿易赤字額は290億USD(約3.538兆円)。今年前半時点では160億USD(約1.952円)だが、今回の影響で年末までにこの数字がかなり上がることが予想される。

平行して、中国の輸出業者は国内の経済状況悪化に際し、海外への輸出増にやっきになることも予想される。特に縫製関連では、Made in Chinaが世界中でシェアを伸ばし、ベトナム産のシェアを押しつぶす可能性もある。複数の関連協会によると、現在ベトナム産の最大のライバルは中国産だとのことだ。

今回の影響で、シンガポール・韓国・日本・オーストラリア等の経済国家も輸出競争力の改善を図るため、為替政策の見直しをしなければならなくなり、これまで円安やユーロー安などで困難に立たされていたベトナムをよけいに苦労を強いることになるのだ。

2.外国為替

今年初め、ベトナム国家銀行はVND為替の変動を2%の範囲内におさえてきた。しかしながら、人民元の切り下げが始まったとたん、国家銀行はすぐに変動幅を1%から2%に上げた。

もちろんこれは直接的なVND切り下げという事態ではないが、これまで天井だと思われていたVNDドル為替値が更にVND安になったことは、それに相応する事態なのだ。

この情報を受け、外国為替市場はすぐに動いた。各銀行は新たな水準を掲示し、22,105VND/USDまでVND安の場面もあった。

しかしながら、専門家によれば、これは輸出企業と貿易バランスを補助する為にすべき調整だと説明している。特に米連邦準備制度委員会(FED)が間もなく利上げする可能性があることも影響しているとのことだ。

Ban Viet証券会社(VCSC)によると、国家銀行が公約の通り、様々な手法を駆使して2015年度の2%範囲以内に抑えることはできるかもしれないが、これはただの時間稼ぎにしかならず、次期の大規模なVND安は遅くても必ず起きるとしている。
 
もし、どうしてもVND為替を維持したいのであれば、外貨準備が消費されることを覚悟しなければならなくなる。


3.証券市場

中国の人民元切り下げの影響で外国為替がぐらつき、企業の経営にも影響したことから、証券市場も3日間連続で赤色に染まり、Vn-Indexもトータルで20ポイント下がっている。
 
VCSCによれば、人民元の切り下げはマーケット心理を弱くし、この状況はベトナムだけでなく世界中で起きているとのこと。
 
国家証券委員会会長のブー・バン(Vu Bang)氏によると、今回の中国から始まった通貨戦争は確実に経済と資本市場に影響し、今後しっかり監視する必要があると述べた。

なお、上記のマイナス影響とは反対にベトナムにも得るものもある。
 
中国が人民元の切り下げを行ったことによって、FEDの利上げ実行が延期される可能性があり、そのおかげで外国通貨がそのままベトナムを含む発展途上の国々に残存する可能性があるとのことだ。

その証拠に、8月11日から13日にかけて、外国投資家がホーチミン証券市場で購入した額は2900億VNDで(約1,300万USD、約16.57億円)という数値も出ている。


4.投資

現在、ベトナムへの投資国103カ国の内、中国は81億USD(約9,882億円)以上の投資額で9位に付いている。投資分野は主に、工業、鉱業、インフラ建設だ。しかしながら、日本・韓国・シンガポールの投資額に比べればまだまだ小さい。
 
経済政策研究院(VEPR)に属する中国経済研究プログラム(VCES)の所長によると、中国FDI(直接投資)の大半は、既に機械設備の輸入ルートを通じて商業チャネルに転換されている為、今回の人民元の切り下げが中国FDIにどのような影響が出ているのかは明確になっていないという。
 
現在、インフラ分野では中国が多くの都市鉄道プロジェクトに参加しており、その為、これらのプロジェクトに必要な資金が影響を受けるであろうと予想される。例えば、カットリン(Cat Linh)とハドン(Ha Dong)を結ぶ鉄道プロジェクトでは、中国が5.52億USD(約673.44億円)を投資しており、担当ゼネコンも中国の会社が担っている。

人民元の価値が下がったことで、ベトナム側は中国からの機材を安く仕入れることができる。しかしながら反対に国内ゼネコンに対しては、人民元からVNDに換金される形で支払われることになるので、支払うVND額が少なくなるという事態になる。
 
現実として、どれぐらいの影響があるかを計る為には、そのプロジェクトで中国からの仕入れや中国ゼネコンへの支払いが何割を占めていて、ベトナム側が担当する部分がどれぐらい占めているかなど、各プロジェクトの内容によりけりだという。

 
5.国家予算
財務省の海外債務第7の直近の資料によると、2010年末ベトナム政府から中国への債務は5.517億USD(約673億円)で、ベトナム全体の2%にあたり、企業の中国に対する債務は11.2億USD(約1,366.4億円)になる。

それ以外にベトナムは中国からのODAと優遇融資として2015年6月末までに3.958億USD(約482.8億円)を受けており、国家予算の1%を占めている。

今回の人民元の切り下げは、ベトナムにとって中国への債務返済面で有利となるが、対ドル為替がVND安に変動したことでUSD通貨で融資を受けた分については不利に働いている。

ある情報筋によれば、今年末までに優遇措置が終わる債務がある為、毎年の返済額は大きくなり、これまで75億USD(約9,150億円)だったのが、95億USD(約1.159兆円)になるという。このまま対ドルVND安が進めば、国家予算にとって大きな圧力になることが予想される。


6.旅行業

ベトナム総統計局の資料によると、ベトナムへの旅行客数の内、中国が一位で、全体の25%近くを占めているという(中国からの旅行客数:2014年で190万人、2015年前半7ヶ月で95.08万人)。しかしながら、今回の影響で旅行客数が減ることが予想される。
 
つい最近まで、ベトナムの旅行業界を襲った困難はロシアのルーブルが破綻したことだ。これにより一部のヨーロッパ諸国とロシアからの旅行客が減少し、2015年前半7ヶ月のロシアからの旅行客は19.04万人ほどしかなく、前年度同期に比べて12%も減っている。それより前は、ロシアからの旅行客は常に毎年成長率が二桁成長で、ベトナムへの旅行客数のTOP10に入っていた。

なお、ベトナム総統計局によると、中国は確かに人数では1位だが、一人あたりの消費額は他の国と比べて低いのだという。
当局によれば、ツアー客1日あたりの消費額は90USD(約10,980円)程度で、他の国の63%ぐらいだという。更に、ツアー以外の中国旅行客の消費額は1日あたり41.28USD(約5,036円)で平均の35%ぐらいしかないのだという。


ソース:VNEXPRESS(2015年8月13日掲載記事)